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2011年08月17日

『今の世界が終わる前に』

どうもはじめまして、晴居彗星です。
名前と顔だけでもおぼえて帰ってください。
まあ、はじめましてと言ってもね、
こうしてぼくの話を聴いてくださっているみなさんを見ると、
見知った顔とか、ぼくのこと知ってる人とか、いると思うんですけど、
それでもやっぱりね、厳密に言えば、はじめましてと言うのが正解だと思います。

なにしろ、ぼくらの住んでるこの世界がはじまって、まだ5分しかたってないわけで、
まあ、全然そんな気しないわけですけど、
自分の記憶や世界の歴史ごと5分前にできましたから、そりゃしょうがないわけで。
過去なんてそんなもんですからね。
記憶と記録があれば、実際にあったことになっちゃいますから。
恐竜は最初から化石だし、古文書は最初から古文書だし、
死んだ人は最初から死んでるし。
ぼくも、最初から、25歳のさえない男として、
世界やみなさんといっしょに、5分前にはじまったわけですけど。

まあ、ぶっちゃけ、世界がはじまったのが100億年前だろうが5分前だろうが、
あんま影響ないっちゃないんですけどね。
ただ、なんていうんですかね、なんだったのかなーっていうのは感じますよね。
ぼくだってこの25年間、いろんなことがあったような気がするんですけど、
それが全部、たった5分前にできた記憶だと思うと、うーんって感じです。
設定にも多少文句もありますしね。あの、ビジュアルとか、
全体的にもね、この何ヶ月か、いろいろなことが起こって、
できたばかりなのに、なんだか世界の終わりみたいな世界です。

あのー、世界の終わりといえば、
小さいころ、といっても、ぼくの記憶も5分前に作られたわけですけど、
小学生のとき、休みの日、友達と自転車で遊びに出かけたんですね。
親にはあんまり外に出るなって言われてた時期だったんですけど、
なにしろ、遊びざかりだったもんで。
当時よく遊んでたのは、川の向こうのとなり町にある廃工場で、
人気もほとんどないところで、
まあ、そのころって、もともとあんまり人は出歩いてなかったんですけど、
あたりは昼間なのに薄暗くて、敷地の中に入ると雑草だらけで、
打ち捨てられたドラム缶とか、錆びたパイプがいっぱい転がってるようなところで。
その日も、みんなで適当に、動かないベルトコンベアのボタン押しまくったりとか、
よくわかんないアームのついた装置の上に乗っかったりとかして遊んでたんですけど、
そのうち、工場の中でかくれんぼしようぜって話になったんですね。
そいで、じゃんけんして、みんなでかくれたわけですよ。
で、ぼくは、2階の、なんかいっぱい部屋があったんですけど、一番奥の部屋、
中に入ると、応接テーブルと、机とイスと大きな窓、なんか社長室っぽいところで、
ぼく、その机の中にかくれたんですね。
それでぼく、待っているあいだに、ウトウトしちゃったんです。

目がさめたのは、ズシンっていう、大きな振動のせいでした。
軽い地震かなと思って、ハッと目をさますと、
ちょうどぼくのうしろにあった窓から、赤い日が差しこんでて、
そんなに長い時間寝たつもりはなかったんですけど。
あー夕方だ、そろそろ帰らなきゃって、ぼんやり立ち上がって、窓の外を見ると、
あのー、町が、燃えてたんですね。

そこかしこから、火とか煙が上がってて。
たくさんの飛行機が飛んで、たくさんの、黒いなにかを落としてました。
それが落ちたところから、また火が上がって、
火だるまになった人たちが家から飛び出して、のたうちまわってました。

そのころっていうと、ちょうど第三次世界大戦がはじまって1年ぐらいで、
少し前に、九州のほうで空襲があったってニュースは観てたんですけど、
なんか、申しわけないけど、こどものぼくには、全然リアリティがなくて、
親には、むやみに外を出歩くなとは言われてたんですけど……。
休むまもなく、今度はものすごく近くで爆撃の音がして、建物が一気にゆれました。
とにかく、やばいと思って、僕はあわててその部屋を出て、
階段で下へ降りようとしたんですけど、そこはもう、一面が火の海でした。
ぼくの友だちはみんな、床や、ベルトコンベアの上で、黒焦げになってました。
僕は下に降りることもできずに、またさっきの部屋にもどりました。
ここまで火の手が来るのは、時間の問題で、
たぶん、自分はここで死ぬんだなと思いました。
もう、パニクるでもなく、なんか、夢でも観ているような気持ちになってて、
ぼく、ぼんやり、窓の外の風景を観てたんですよ。
川の向こうのぼくらの町を見ると、大きなきのこ雲が地上から空に向かって浮かんでて、
そこは、まさに世界の終わりって感じで、
どう考えても、バッドエンドって感じでした。

そのとき、けむりの上がる空の中に、
切れ目みたいな横向きの線が、ならんで入ったんですよ。
はじめは、黒い飛行機雲かと思ったんですけど、
それがゆっくり、パカッと開いて、ふたつの大きな目玉が、地上を見下ろしたんですよ。

その瞬間、建物とか、車とか、人とか、なにもかも関係なく、
いろんなものがさらさらーって、砂みたいに形を失いはじめて、
空に浮かぶ、そのふたつの目玉に吸いこまれていったんですね。
その変化は、遠くのほうからだんだん近くまで来て、
僕がはりついている窓や壁も、だんだんと砂に変わり、
外にむき出しになったぼくの体も、指先から徐々に、砂に変わっていきました。
それはちょうど、あったかいお湯に浸かっていくような感覚で、
ぼくは、あっというまに全身砂になって、その目玉に吸いこまれて消えていきました。
それが、ぼくの、10歳の時の記憶。
ついさっきできたぼくの記憶の中に、たぶん、うっかり残ってしまった、
前回の2011年の、今日のできごとです。

今のこの世界がはじまって、もうすぐ20分たとうとしてます。
今も2011年なんで、一応、前回のつづきってことなんでしょうけど、
設定はちょっとちがう感じですけど。ぼくも今回は25歳になってるし。
まあ、もう、けっこうバッドエンドっぽい雰囲気がプンプンしてるんですけど、
どっかで見てるあの目玉のだれかにしてみたら、まだこれは、
アトラクションの域なのかもしれないですね。
こっち的にはたまったもんじゃないですけど。
今が何回目なのかわかんないですけど、
いつ終わってもふしぎじゃないような世界ですけど、
それでも、この中の登場人物であるぼくらにとっては、
20分前にはじまったここが、唯一の世界なんですよね。

だから、どうか、おぼえていてほしいんです。
どうもはじめまして、晴居彗星です、
名前と顔だけでもおぼえて帰ってください、
今のこの世界が存在しているうちに、
名前と顔だけでもおぼえて帰ってください、
ぼくだけじゃなくて、これから出会う人、
聴いた言葉、体験したこと、湧き上がった気持ち、
どうかほんの少しでもおぼえて帰ってください、
そうは言ってもわすれちゃうんでしょうけど、
いつかこの世界がバッドエンドになりそうになって、
また設定を変えてやり直しになったとしたら、
今の世界で笑ったことも、
今の世界でなやみ苦しんだことも、
今の世界に救われたことも、
今の世界であたりまえの日々をすごしていたことも、
きれいさっぱりわすれちゃうんでしょうけど、
あとかたもなくわすれちゃうんでしょうけど、
それでも、そのときが来るまで、ぼくらの世界は、ここですから。

5、4、3、2、1、まだ、世界はあります。
5、4、3、2、1、まだ、世界はあります。
5、4、3、2、1、まだ、世界は…………
posted by 晴居彗星 at 23:41| Comment(1) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
6月のポエトリーliveやね。


うーん、liveの時に感じたのと、文章から感じるのもまた違うね。

きらいじゃない
Posted by 小宮健太郎 at 2011年08月23日 02:37
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